B. 坑内災害の特質及び
その防止について

 
                        

   

W.自然発火について

   1.自然発火とは
 
  石炭は炭質およびその状態のいかんによっては、自然に熱をもって遂には燃え始める。
  石炭が空気に触れると、空気中の酸素を吸収して、炭酸ガスを出す。 これを酸化作用というが、この
 時熱を出す。これにこの酸化熱が種々の条件で石炭の中に蓄積され温度が高くなる。 温度が高くなる
 と酸化作用が益々早くなり益々熱が加わって遂には蒸し焼きが始まり煙を出し発火する。この現象を石
 炭の自然発火という。

 
   2.自然発火の発見、防止及び消火について

   2-1 自然発火の経過と発見について
  冷たい石炭が酸化作用により、次第に温度が昇り、遂に発火するまでの経過は次の通りである。
   (1) 最初は単に酸素を吸収するだけである。
   (2) ある程度以上酸素を吸収するときは、化学作用が起り温度が昇って水、炭酸ガス、一酸化炭
      素等を発生する。
   (3) その後次第に、これ等のガスの発生量は増加し温度が昇る。
   (4) 200℃以上になると揮発分を出し白煙を出し、まもなく発火する。
 
   自然発火を早期に発見するための注意点は次の通りである。
    @ 旧坑の臭いを感じ、天井際に湿気を帯ぴる。
    A 霞とか霧がかかり天井、枠等が汗をかき水滴ができる。温度は40℃以上となり熱く感ずる。
    B 酸味臭、芳香臭、にんにく臭等がする。
    C 石油臭い、タール臭がする。又、木枠のある場所では木のいぶる臭いがする。
    D 煙が出る。
    E 焔が出る。
  つまり、煙が出る前に極力発見出来るよう注意しなければならぬ。


   2-2 自然発火の防止について
  これについて注意しなければならぬことは次の通りである。
   (1) 採掘跡には残炭、坑木の切端、切くず等の燃えやすいものを残さない。
   (2) 石炭の酸化を助長する金物類を残さない。
   (3) 採掘跡はできるだけ早く密閉する。(払跡への漏風防止)
   (4) 密閉箇所の漏風を防止する。(天井当付け)
   (5) 通気門の管理をよくする。(風の流れに変化を与えない)


   2-3 自然発火の消火について
  自然発火が起った場合の消火法は、
   (1) 注水法
   (2) 密閉法
   (3) 水没法
  がとられているが、どんな消火法よりも早期発見が大切である。

 
 
X.坑 内 火 災
 
  坑内で火災がおきると、石炭および各種の資材を焼失するばかりでなく、広範囲にわたり密閉、水没
 等をする場合もあり、直接、間接にこうむる損害は莫大なものになる。
  なお火災の発見伝達がおくれたとき、消火措置が適切でなかった場合には、煙、ガスのために中毒
 または窒息死亡者を出し、またメタンガスのあるところでは、火災よりガス炭じん爆発を誘発し、多数の
 犠牲者を生ずることになる。
  坑内には石炭、坑木、べルトコンベア、油類等燃えやすいものばかりであるので、次のことに特に注
 意しなければならぬ。
   (1) 防火設備ならびに消火設備を完全にし、破損しないようにする。
   (2) 機械、電気工作物の検査を厳重に行い、欠陥は直ちに改善する。
   (3) 発火原因となるおそれのあるものの付近には、可燃性物質は置かない。
   (4) 危険の早期発見につとめ、重大災害発生時の連絡方法、連絡する人等を平常よりよく知って
       おく。
   (5) 火災は最初の五分間が大事なので、消火器の使用方法をよく知っておく。
   (6) 火気使用は必ず届出、許可証が必要である。そしてその後の後チェックが大切である。
   (7) B.Cの摩擦熱(硬の噛込み)

        参考資料 
   イ、消火器について
  炭鉱では一般には次の消火器が使用されている。 
   ○粉末消火器(ABC消火器)(大部分)
   ○泡消火器(電気火災には使用しない方がよい)(一部使用)

   ロ、消火設備
  べルトコンベア設置坑道、第1級第2級電気品座等、管理者の指定した箇所に設置している。

  以上ガス炭じん爆発、自然発火および坑内火災について述べたが、これらの総合的な予防対策とし
 て、会社としては各鉱において定期的なガス炭じんの測定、分析を行っている。
  特に自然発火対策については、その事前発見処理のために採掘跡(旧坑)、密閉内のガス測定、分
 析は勿論、危険の恐れのある区域についての監視、並びに注入等の処置を行い、それらの早期発見
 につとめるべく、24時間体制で監視を強化している。

 

Y.自 己 救 命 器
 
  坑内爆発や火災、自然発火の際に発生する一酸化炭素は坑内通気に乗って各坑道にまわり、爆発
 現場から非常に離れた所でも大きな被害を与え、数多くの犠牲者を出している。このようなとき、自己
 救命器(COマスク)を装着して安全地帯に逃げる間、一酸化炭素の害から命を守るものである。


   1.構造と能力

   1-1 構  造
  自己救命器は本体・吸収缶・鼻バサミ・ケース・容器カバーから構
 成されている。
    全重量       1,150g
    薬剤ポプカリット  115cc
    吸湿剤       115cc


   1-2 能  力
  吸収缶内の薬剤が一酸化炭素を酸化し無毒化する能力は、その
 使用目的から考えて事故現場から安全な場所まで退避するのに要
 する時間中発揮されることが絶対に必要であり、耐久時間は60分で
 ある。

自己救命器(COマスク)

   2.使用方法と注意

   2-1 使用方法
    (1)容器カパーの開封部の端を上部方向へ引き、カバーを外す。
    (2)ガムテープを外す。
    (3)片手で気密容器をおさえ、開封レバーに指をかけ上部方向に力を加え封を切り、開封レバー
       を起して押す。
    (4)容器からCOマスクの本体を取り出す。
    (5)口片を口に入れて左右のかむ部分を歯で軽くかむ。
    (6)鼻を鼻ばさみではさむ。
    (7)吊ひもを首にかけ、調節具でひもを適当な所まで調整する。


   2-2 使用上の注意
    (1)吸湿すると能力がなくなるので、ケースを開封した直後一回だけしか使えない。
    (2)他の物に、ぶつけないよう、大切に取扱う。
    (3)マスクは装着すると呼吸が苦しく感じるが、絶対に取り外さない。
    (4)装着後、ガス濃度1%の場合口片部温度が65℃に上昇し熱くなるが、マスクを口から外すと瞬
       時に死ぬので、マスクを口から絶対に取り外さない。
    (5)危救の場合は、先づ呼吸をとめて、あわてずに装着する。ガスを吸わない事が救急の第一歩
       である。
    (6)酸素の無い所及ぴ探険作業、り災者救出作業には使用出来ない。


   3.一酸化炭素の中毒

  一酸化炭素の比重は0.967で無色、無味、無臭で青色焔を発して燃える可燃性ガスで約12.5%になれ
 ば爆発を起し少量でも極めて有毒なガスである。発生の原因は坑内火災、自然発火、ガス炭じん爆発
 の場合、不完全燃焼のため生成される。
  このガスが猛毒であるのは、人体の血液中のヘモグロビン(赤血球中にある血色素)と結合する事が
 極めて容易で、酸素に比べて約230〜300倍の親和力を有しているから血液は先づ一酸化炭素を飽和
 し、酸素を吸入するのを阻止する事になるから血液が酸素欠乏状態となり、中毒を起し死を招くのであ
 る。
  中毒の兆侯は、酸素欠損の場合と同一で著しい前兆はなく、僅かに呼吸及び脈拍が早くなり、多少
 のけん怠感があるが気付かぬ中に大事に至ることがある。中毒の結果は中枢神経系統を侵害するの
 を特長とし、甚だしいときは回復蘇生しても後遺症に悩まされる事がある。空気中の含有量何%より生
 命に危害を及ばすかについては、酸素の欠損、呼吸の時間、動作の程度、本人の健康及ぴ体格等に
 支配され限定しにくいが、およそ0.01%が危険限界とされている。

 
CO濃度による作用時間及び中毒程度
CO(%) 吸入時間 症 状
0.02 15時間  軽度の頭痛
0.05 1時間  頭痛、吐気、眩暈
1.5〜2時間  意識不明
0.10 1時間  耐え難い、意識不明
1時間以上  危険
0.20 30分  危険
0.30 30分  危険 時に死亡
0.50 10〜15分間  死亡
0.80 10分  死亡
1.00 5分  死亡
1.30 1〜3分  死亡
  
 
                                                     2002.08.16作成

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