“人 災” そ の 後
有明鉱火災から1ヶ月
その2
遺族 組織を持たない弱さ 押し黙ったまま怒り隠す 初めて社長が姿を見せた合同社葬(1月25日)で発言の場も与えられず、押し黙ったまま怒り を隠した遺族たち。今も表立った動きはほとんどない。38年の三川鉱炭じん爆発で夫を失った永 江美由紀さん(62)=三池大災害遺族会事務局長=は、組織を持たない弱さだと嘆く。「みんな ねぇ、話してみると夫や息子を殺された怒りは持っとるですバイ。バッテン、会社も組合(新労、職 組)も上手に動くけん、バラバラにされとるでしょうが。これから先、同情がモラルの押し付けや中 傷に変わったりして、きつかこつばかりなのに、励まし合えんと言うのが悲しかじゃなかですか。 腹ン立つ。」 労使協定分の弔慰金の支払い(1月27日)の時、会社は全遺族を集めて手渡す予定だった。 しかし、直前になって「失礼だから」と社員が持って回る事に変更した。以後、弔慰金の上積みに 対する意向聴取や保険の手続きなども、それぞれ個別に行なっている。 「(遺族会など)変な会でも作られたら困るから」と、ある会社幹部は率直にホンネを漏らした。 「これ以上裁判でもやられてむしられたら会社がのうなるですよ」と言った社員もいる。 弔慰金の上積みについても「経営の許す範囲で最大限の誠意を…」と、久保実三池鉱業所次 長の口調も微妙に変わりつつある。三井はすでに、遺族の中心となる人を三井系企業で正式採 用すると発表、人事部分室が遺族の希望をまとめている。中高年の婦人の場合、職場確保には 難しい問題もあるが、何とか実現させようと対応を急いでいる。これに社宅(炭鉱住宅)の職員並 み使用を認めることで一応〈補償〉を終りたい意向だ。 弔慰金交渉がまとまれば、三井は遺族に対し「その他の請求を一切行なわない」という確約書 を提出する事が予想されるが、この時点が当面のヤマ場となりそう。 永江さんら38年の遺族団 や支援団体は「その判だけはついちゃいかん」とアドバイスしているが…。 息子二人を失って自らは奇跡的に助かった藤原敏則さん(41)だけは、「有明鉱惨事被害者遺 族会」を作り、遺族宅を一人で回っている。しかし、手応えは少ないという。弔慰金の上積みは直 轄、下請けに差をつけず平等に行なわれるが、底流には越え難いミゾもあるようだ。 労災保険の支払いは近く行なわれる。特別支給金と葬祭料で350万円。それに遺族年金、基 準となる標準日額は直轄で1万円で、妻、子供二人の場合で遺族年金は年額200万円を少し超 える程度。しかし、下請け孫請けの場合、標準日額が直轄の半分程度で、年金はグッと下がる。
|